山本祐司(45歳・男性)老舗居酒屋三代目
「あの時の絶望は、今も忘れられない。深夜の店で一人、震える手で書いたのは、閉店のお知らせ…ではなかった」
日本酒が喉を通り過ぎる音、カウンター越しに交わされる温かい笑い声、煮詰まるおでんの優しい香り。
創業から百年、祖父の代から受け継いだこの店は、私の誇りだった。都内に8店舗、年商8億円。右肩上がりの成長が永遠に続くと信じていた、あの忌まわしいコロナ禍が来るまでは…。
緊急事態宣言が発令されるたび、予約はキャンセルで埋め尽くされ、店には閑古鳥が鳴いた。日に日に減っていく預金残高、毎月1200万円の固定費が鉄のように重くのしかかる。3億円の借入金、そのうち2億円は藁にもすがる思いで借りたコロナ融資。それでも足りず、家賃は3ヶ月滞納、額にして600万円。大家さんからの催促の電話が、心臓を締め付ける。
「もう、限界かもしれない…」
深夜、灯りを消した店内で一人、私は震える手で閉店のお知らせを書こうとしていた。頭の中を駆け巡るのは、かつて賑わっていた店の光景、常連客の笑顔、そして何よりも、この暖簾を守り抜いてきた祖父と父の顔だった。
そんな時だった。次々と辞めていく従業員の送別会で、憔悴しきった私を見かねた商店街の知り合いが、そっと一枚の名刺を差し出した。「一度、この人に相談してみたらどうだろうか…」。そこに書かれていたのは、「TherAction 堂本晃聖」という名前だった。
藁にもすがる思いで連絡した堂本さんは、私の目に宿る絶望を見抜いたように、優しい口調で言った。「山本さん、確かに今は苦しい。でもね、本当に価値あるものは、どんな形になっても輝きを失わない。料理人の魂、お客様との思い出…それは、デジタルになっても色褪せないはずです」。
その言葉は、凍り付いていた私の心に、一筋の光を灯してくれた。
【Phase 1:嵐の中の羅針盤 – 緊急収益改善への挑戦】
堂本さんのアドバイスを受け、最初に取り組んだのは、これまで考えもしなかったデリバリー事業への本格参入だった。老舗の味を家庭で楽しんでもらう。それは簡単なことではなかった。何度も試作を重ね、高級店ならではのプレミアムメニューを開発。料理長の「絶対に冷めても美味しくなければ意味がない」という言葉に、皆で頭を悩ませ、オリジナルの保冷パッケージを開発した。特許出願までこぎつけた時は、久しぶりに皆で喜びを分かち合った。
これまで外部の業者に頼んでいた配送も、手数料が大きな負担になっていたため、思い切って自社で配送網を構築することにした。最初は戸惑ったアルバイトの学生たちも、徐々に慣れていき、今では店の貴重な戦力だ。デリバリー手数料を15%も削減できたのは、本当に大きかった。
同時に、見過ごしてきた無駄を徹底的に洗い出すことにした。特にひどかったのが、食材の廃棄ロスだった。毎日、大量の食材がゴミ箱に捨てられるのを見るのは、心が痛む作業だった。堂本さんの紹介で導入した自動発注システムは、まるで魔法のようだった。発注業務が劇的に効率化され、なんとロスを70%も削減できたのだ。原価率も42%から35%まで改善し、経営は少しずつ、しかし確実に上向き始めた。
在庫管理も、長年どんぶり勘定だった。30万円を投資して在庫管理アプリを開発したのだが、これが驚くほど効果を発揮した。棚卸しの時間が大幅に短縮されただけでなく、食材の鮮度も保てるようになり、お客様に常に最高の状態の料理を提供できるようになった。
【Phase 2:新たな航海へ – ブランドを進化させる】
緊急的な収益改善で息継ぎができるようになった頃、堂本さんは「山本さんの店の価値は、もっと広げられるはずだ」と、新たな提案をしてくれた。それが、オンライン体験の提供だった。
最初は戸惑った。居酒屋のあの賑わいや、料理人の手仕事の温かさを、どうやってオンラインで伝えられるのか想像もできなかった。しかし、料理長が「これも新しい挑戦だ」と率先してオンライン料理教室に挑戦してくれた。最初はカメラの前で緊張していた料理長も、回を重ねるごとに自信をつけ、今ではすっかり人気講師だ。月額会員は200名を超え、新たな収益源となった。
日本酒のサブスクリプションも始めた。全国の酒蔵を巡り、厳選した日本酒をストーリーとともに届ける。日本酒好きな私にとっては、まさに天職のような仕事だ。毎月、お客様からの感想を読むのが楽しみになっている。こちらも月額会員は500名を超え、日本酒の新たな魅力を発信する場となっている。
そして、毎週開催しているバーチャル居酒屋イベント。全国各地、時には海外からもお客様が参加してくれる。画面越しではあるけれど、昔と変わらない笑顔と笑い声がそこにある。参加費は一人3,000円。最初は不安だったが、今では予約で満席になるほどの人気イベントだ。
実店舗も、ただ待っているだけでは生き残れない。昼は、これまで培ってきた技術を活かした高級弁当のゴーストキッチンとして稼働させることにした。夕方からは、従来の居酒屋営業。そして深夜は、未来の料理人を育成するためのスクールを開講することにした。時間帯によって顔を変える店舗は、常に活気に満ち溢れている。
【Phase 3:大海原へ – 食のプラットフォームを創る】
オンラインでの成功体験を経て、堂本さんは「山本さんの店は、単なる居酒屋ではなく、日本の食文化を発信するプラットフォームになれる」と、更なる高みを目指すことを提案してくれた。
最初に取り組んだのは、これまで職人だけが持っていた「技」をデジタル化することだった。料理人の繊細な包丁さばき、長年培ってきた秘伝のタレのレシピ、そういったものを全てデジタル教材としてアーカイブ化した。そして、その教材を使い、オンラインでの職人育成プログラムを始めた。半年で50万円という決して安くはない受講料にも関わらず、全国から、時には海外からも料理人を目指す若者が集まってくれるようになった。
長年付き合いのある契約農家や漁師との連携を強化し、彼らの食材を直接消費者に届けるD2C事業も始めた。ECサイトを立ち上げたところ、予想を遥かに超える反響があり、なんと月2,000万円もの売上を達成することができた。生産者の顔が見える安心感、そして何よりも、本当に美味しい食材を届けたいという想いが、お客様に伝わったのだと思う。
そして、私たちのデジタル化のノウハウをパッケージ化し、フランチャイズ展開も始めた。加盟金は300万円。すでに10店舗の加盟が決まり、私たちの想いを共有してくれる仲間が全国に広がっている。
【奇跡の航海を終えて – 新たな未来へ】
あれから一年。私たちの店は、まるで別の船のように生まれ変わった。
数字が語る、驚異の回復
- 月商:800万円 → 1億2,000万円 – 想像を遥かに超える成長
- 営業利益率:-20% → 15% – 力強いV字回復
- 借入金:滞りなく返済を継続 – 未来への希望が見えてきた
変化したのは数字だけではない
- 店舗売上比率:95% → 40% – オンラインが新たな柱に
- オンライン売上比率:5% → 60% – ビジネスモデルの大転換
- 新規事業利益:月1,000万円 – 新たな成長エンジンを獲得
組織も人も、輝きを取り戻した
- 正社員:7名 → 20名に増加 – 共に未来を創る仲間が増えた
- 平均給与:15%アップ – 頑張りが報われる喜び
- 料理人の独立回避、新規採用5名 – 伝統の技が未来へ繋がる
特に嬉しかったのは、デジタル化に当初反対していた料理長たちが、今では率先して若手育成にデジタル教材を活用している姿を見た時だ。先日、ある経済誌の取材で、料理長は誇らしげに語った。「伝統を守るということは、古いものを守り続けることではない。時代に合わせて形を変えながら、本質を伝えていくことなのかもしれませんね」。
あの時、閉店のお知らせを書かずに、堂本さんに連絡して本当に良かった。
今、かつての私と同じように、苦境にあえぐ飲食店の経営者の皆さんへ伝えたい。百年続いた価値は、決して消えない。形を変えることで、また百年、その先へと続いていく可能性を秘めている。TherAction、そして堂本さんと出会えたからこそ、私はそう確信しています。
経営難で突破口が見えない経営者のあなたへ