医院経営の危機から復活 – 「疑信一体」で実現したV字回復の記録

多くの医院や診療所が経営難に直面する中、「疑信一体」というアプローチで危機を乗り越えた一人の院長の体験談をご紹介します

目次

崖っぷちからの再出発 ― 渡辺洋介(45歳・クリニック院長)

私は父から引き継いだ地域密着型クリニックの二代目院長、渡辺洋介です。開業30年の実績を持つ私たちのクリニックは、かつては地域住民から絶大な信頼を得ていました。しかし近隣に大型医療モールがオープンして以来、患者数は徐々に減少。

焦った私は「最新医療機器を導入すれば患者は戻ってくる」と考え、無理な設備投資を決断しました。

「最新の超音波診断装置があれば、若い世代にもアピールできる」 「大学の先輩の病院でも導入して成功している」 「この機械さえあれば、うちも盛り返せる」

こうした思い込みから、十分な市場調査や資金計画もないまま、5,000万円もの高額医療機器を導入。さらに薬機法上の手続きも軽視していました。

結果は惨憺たるものでした。新規患者は期待ほど増えず、維持費や研修費がかさみ、クリニックの資金繰りは急速に悪化。ローンの返済も滞りがちになり、3か月連続の赤字に陥りました。

「このままでは父から引き継いだクリニックを潰してしまう…」

眠れない夜が続きました。家族にも言えず、スタッフにも本当の経営状況を隠し続けていました。

救いの手 ― 「疑信一体」との出会い

絶望の淵にいた私を救ったのは、地域医師会の勉強会での出会いでした。同世代の医院長・佐藤が「経営危機から復活した」と話すのを耳にし、勇気を出して相談。佐藤の紹介で堂本晃聖さんの「疑信一体」コンサルティングを受けることにしたのです。

最初のセッションで、堂本さんは私に問いかけました。

「先生がクリニックを継いだ理由は何ですか?」 「患者さんのためにできることは何ですか?」 「本当に必要だったのは、高額な機械だったのでしょうか?」

言葉につまりました。「父の遺志を継ぐため…いえ、本当は私も地域医療に貢献したいと…」

そこから、私は自分の思い込みと向き合う旅が始まりました。

「盲信リスト」で自分を知る

堂本さんの指導で最初に取り組んだのは「盲信リスト」の作成でした。自分が無自覚に信じ込んでいた前提を正直に書き出したのです。

【私の盲信リスト】
・最新医療機器があれば患者は自然と増える
・大学の先輩の成功例は自分のクリニックでも再現できる
・設備投資だけで患者満足度は向上する
・薬機法の手続きは後回しでも大丈夫
・経営の悩みはスタッフに知られるべきではない
・父の時代のやり方を変えるのは失礼にあたる

リストを見て、愕然としました。こんなにも根拠のない思い込みで意思決定をしていたんですね。

次に「疑信メーター」で自己診断を行った結果、私は極端な「盲信」傾向にあることが数値で明らかになりました。

  • 「疑う力」:10点中2点
  • 「信じる力」:10点中7点

「バランスが大きく崩れていますね」と堂本さん。「でも、まだ『信じる力』が残っているのは救いです。この力をクリニックの本当の価値に向けましょう」

コア価値を再発見する

次のステップは「コア価値の再定義」でした。私はクリニックの本質的な価値を言語化するワークに取り組みました。

「なぜ地域の方々は、以前このクリニックを信頼していたのでしょうか?」

この問いをきっかけに、父の時代からの患者カルテを読み直し、長年の患者さんに直接話を聞きました。すると意外な事実が浮かび上がってきたのです。

患者は最新機器を求めていたわけではなかった。彼らが求めていたのは、「健康の不安に寄り添い、わかりやすく説明してくれる医師の存在」だったのです。

この気づきから、クリニックの新しいコア価値が定まりました:

「患者が安心して何でも相談できる、地域のかかりつけ医であること」

これこそが、私たちのクリニックが30年間地域で愛されてきた本当の理由だったのです。

小さく始める ― 財務と向き合う勇気

同時に、「疑う力」を強化するため、クリニックの財務状況と向き合いました。

「このままでは3ヶ月後に資金ショートする可能性があります」

会計士からの厳しい現実に、初めて事実を受け入れました。そこで堂本さんと共に「小さく試す」戦略へと転換しました。

  1. 高額機器の一部リース返却と維持費削減
  2. 本当に必要な小型機器1台だけを試験的に導入
  3. 3ヶ月間の患者アンケートで効果測定

さらに私は、それまで隠していた経営状況をスタッフに正直に打ち明けました。「恥ずかしさ」よりも「クリニックの存続」を優先した決断でした。

驚くべきことに、スタッフの反応は想像と全く違いました。

「先生、もっと早く言ってくださればよかったのに」 「みんなで乗り越えましょう」 「私たちにもできることがあります」

看護師長の鈴木さんは涙ながらに言いました。「このクリニックが好きで働いています。一緒に立て直しましょう」

その日から、全スタッフ参加の「疑信会議」が毎週行われるようになりました。

「疑信会議」で本音と数字を共有する

毎週月曜日の診療後、私とスタッフ全員が集まる「疑信会議」を始めました。ここでは患者数、収支、患者からのフィードバックを全員で確認し、「どんな小さなリスクも隠さず共有する」文化が育まれていきました。

第1回疑信会議のデータ(導入2週間後):

  • 週間患者数: 148人(前年同期比-12%)
  • 月間収支: -82万円
  • 患者満足度: 3.2/5.0

「まずは現状を正確に把握することから始めましょう」と堂本さんはアドバイスしてくれました。

会議では明確な「撤退ライン」も設定しました:

  • 3か月後も患者満足度が3.5未満なら、戦略を全面的に見直す
  • 6か月後も月間赤字が続くなら、クリニック縮小も検討する

厳しい数字を前に、全員が重苦しい表情になりましたが、看護師の一人が思いがけない提案をしてくれました。

「私たちで患者さんへのフォローアップ電話を始めませんか?予約の前日に確認の電話をするだけでも、安心感が違うと思います」

この提案を皮切りに、スタッフからさまざまなアイデアが生まれ始めました。

患者との関係を再構築する

スタッフたちは、自分たちにできる「小さな変化」を次々と実行してくれました:

  1. 予約確認と投薬フォローアップの電話
  2. 待合室の環境改善(観葉植物の導入、雑誌の刷新)
  3. 説明用イラスト資料の作成(高齢者にもわかりやすく)
  4. 近隣施設への健康講座の無料提供

私自身も変わりました。診察時間を少し長めに取り、患者の話をじっくり聞くようになりました。高額機器に頼らず、問診と基本検査を丁寧に行い、必要な場合のみ専門医を紹介する「かかりつけ医」本来の役割に立ち返ったのです。

ある日、長年の患者・田中さん(78歳)が診察後、受付で看護師に声をかけました。

「最近の渡辺先生、お父さんに雰囲気が似てきたねぇ。あの頃みたいに話しやすくなった」

その言葉を聞いたとき、胸が熱くなりました。

数字で見る回復の軌跡

「疑信会議」を3か月続けた結果、クリニックには確かな変化が表れ始めました:

3か月後の疑信会議データ:

  • 週間患者数: 167人(前年同期比-2%)
  • 月間収支: -28万円(赤字幅70%改善)
  • 患者満足度: 4.1/5.0(目標達成)

さらに重要なのは、新規患者の紹介率が上昇し始めたことでした。既存患者からの口コミで「丁寧に話を聞いてくれる医院」として、徐々に評判が広がっていたのです。

「撤退ライン」で設定した患者満足度の目標は達成できましたが、まだ赤字状態。しかし堂本さんのアドバイスで「小さな成功体験を積み重ねる」ことの価値を理解していた私は、焦らず着実に改善を続けることを決意しました。

転機 ― 地域のニーズに応える

改善を続けて6か月目、クリニックに新たな変化が訪れました。地域の高齢者施設から「定期的な訪問診療」の依頼が入ったのです。

スタッフが健康講座で関係を築いていた施設でした。「丁寧な説明と親身な対応」が評価されての依頼だと言われ、本当に嬉しかったです。

私は「疑信会議」で訪問診療の損益シミュレーションを徹底的に行いました。

訪問診療シミュレーション:

  • 初期投資: 携帯型医療機器 120万円
  • 月間収入増: 68万円(予測)
  • 損益分岐点: 導入後2か月

「小さく試す」の原則に従い、まずは週1回、10名の利用者からスタートすることに決定しました。

その判断は的中しました。訪問診療は施設利用者やその家族から高く評価され、2か月目にはさらに別の施設からも依頼が舞い込みました。

6か月後の疑信会議データ:

  • 週間患者数: 184人(前年同期比+8%)
  • 月間収支: +42万円(黒字転換達成)
  • 患者満足度: 4.2/5.0

私は涙ぐみながらスタッフに感謝の言葉を述べました。 「皆さんのおかげで、父の遺志を継ぐクリニックが存続できました」

1年後 ― 継続的な成長への道

「疑信一体」コンサルティングを受けて1年が経過した頃、私たちのクリニックは地域に不可欠な医療機関として確固たる地位を取り戻していました。

1年後のデータ:

  • 週間患者数: 213人(前年同期比+27%)
  • 月間収支: +98万円
  • 患者満足度: 4.5/5.0
  • 訪問診療: 週3回、3施設、利用者38名

さらに重要なのは、スタッフの意識と組織文化の変化でした。「疑信会議」は今も継続され、誰もが意見を言える風通しの良い環境が定着しています。

かつて高額医療機器の返済に苦しんでいた私ですが、今では必要な設備投資を計画的に行えるようになりました。その違いは、投資判断のプロセスにあります。

新たな設備投資の判断基準:

  1. 患者アンケートで具体的ニーズを確認
  2. 小規模レンタルで試験的に効果測定
  3. 財務シミュレーションで3か月・6か月・1年の予測を立てる
  4. スタッフ全員の合意を得てから決定

この1年で、私が最も大切にするようになった価値観は「透明性」です。経営状況、課題、成功、失敗——すべてをスタッフと共有し、共に考え、決断していく。

「疑う力」と「信じる力」のバランスを取りながら、リスクを適切に管理しつつも前に進む。それが堂本さんから学んだ「疑信一体」の真髄でした。

今の私たち ― 新たな可能性へ

私たちクリニックの変化は、地域医療のあり方についても新しい示唆を与えました。高額医療機器の導入競争ではなく、「患者に寄り添うコミュニケーション」と「地域のニーズに合わせた診療スタイル」こそが、中小規模のクリニックの生き残る道だということを示せたのです。

今では私たちの取り組みは医師会でも注目されるようになり、私自身も若手医師向けの経営勉強会で自らの失敗と再生の物語を語っています。

「私は高額機器を買えば患者が増えると思い込んでいました。でも本当に必要だったのは、患者さんの声に耳を傾けることだったんです。失敗から学んだからこそ、今の私たちがあります」

堂本さんの「疑信一体」コンサルティングを受けてから1年半。私は今、地域の高齢化に対応した新しい診療モデルの構築に取り組んでいます。訪問診療とオンライン診療を組み合わせ、動けない高齢者でも適切な医療を受けられる仕組みです。

全ては「患者が安心して受診できる地域のかかりつけ医」というコア価値からの発展形。小さく試し、データで検証し、修正しながら前進する——疑信一体のアプローチが、私たちの日常に根付いています。

同じ悩みを抱える医院長の皆様へ

経営危機に陥ったとき、私は恥ずかしさから問題を隠していました。それが事態をさらに悪化させたのです。「疑信一体」との出会いで学んだのは、「疑う勇気」と「信じる力」のバランスです。

今、同じような状況で苦しんでいる医院長の方々に伝えたいのは、「まず現実を直視してください」ということ。そして「クリニックの本当の価値は何か」を問い直してほしい。

高額医療機器も最新技術も時に必要ですが、それらはあくまで「手段」であって「目的」ではありません。患者さんが本当に求めているものは何か——その問いに誠実に向き合えば、どんな状況でも道は開けると信じています。

失敗は恥ではなく、成長のための贈り物です。私がそれを理解できたのは、スタッフや患者さん、そして堂本さんとの出会いがあったからこそ。この場を借りて、心から感謝を伝えたいと思います。

— 渡辺洋介


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