三代目若手社長と私が導いたV字復活の物語

「このままでは、社員全員不幸になりますよ」

創業60年の老舗ネジ工場に向かって、私はそう言い放った。
32歳で突然3代目を継いだ若手社長の目の前で。受注減少、借金、社員の士気低下——。
すべての数字が右肩下がりだった。

しかし私には、この会社には”変わる力”が眠っているのが見えていた。なぜなら、私自身が幾度となく経験してきたからだ。

どん底からの再起。破綻からの復活。そして最も大切なこと——人の心の奥底に眠る”変化のエネルギー”を引き出すこと。

「1か月間、あなたは社長を”やめて”ください」

私が提案した異例の改革プランは、この町工場に驚くべき変化をもたらすことになる…。
これは、V字回復を遂げた1つの企業の物語であり、同時に、人々の心が解き放たれていく記録でもある。。

目次

第一章:衝撃の出会い

ある下町にある小さなネジ工場「中根製作所」は、今年で創業60年を迎える。
先代社長が病気で突然引退し、3代目としてバトンを受け取ったのは、若干32歳の中根大輔だった。

しかし、工場は受注減少、社員の士気低下、設備の老朽化などの問題を抱えており、銀行からの追加融資も見込めない状況。このままでは危機的状況だ。

そんな折、大輔から無料相談の申し込みがあり、近所というのもありコメダで会うことになった。
初対面の打ち合わせから、私は遠慮なくきっぱりと言い放った。

わたし「中根さん、正直に言いますよ。今のあなたの会社は『生きた屍』です」

大輔「え…」

わたし「社員の目が死んでる。これは経営者である『あなたの魂が死んでいる』からです」

大輔「(たじろぎながら)そんな…」

わたし「でも、だからこそチャンスです。なぜなら『死んだ魂は、必ず蘇る可能性がある』。私は何度も経験してきました」

私は大輔を睨みつけるようにして言った。

わたし「“どうしたらいいか分からない”のは、あなたが自分の頭で考えてない証拠です。あなたは本気で、この会社を存続させる価値があると思ってるんですか?」
大輔「そ、それはもちろん…ただ、まわりの期待もあるし、先代の跡を継いだ責任もあって…」 わたし「責任云々以前に、社員を食わせていく覚悟はあるんですか? “アホな経営者”のせいで社員が苦しむのは我慢ならない。だから私ははっきりとこうあなたに言います。今のままなら、社員全員不幸になりますよ」

私は誰に対しても容赦がない。大輔もかなり腹がたったと思う。
しかし、大輔は自分でも腹の底で分かっていた。
「いまの自分と会社には、何か決定的に足りないものがある」と。

第二章:衝撃を行動に変える「一時的トップ権限サスペンド計画」

私が提示したのは、通常のコンサルタントが絶対に言わないような奇抜な案だった。

わたし「大輔さん。私から一つ、非常に大胆な提案をさせていただきます」

大輔「はい…なんでしょうか?」

わたし「私自身、何度も事業を成功させ、そして失敗も経験しました。その度に気づいたのは、『トップの執着が組織を殺す』ということです。だから今回、あなたには『経営者という殻』を完全に脱ぎ捨ててもらいます」

大輔「それって、具体的には…?」

わたし「1ヶ月間、全ての経営判断を社員に委ねるんです。あなたは現場の一スタッフとして働きながら、『観察者』に徹する。これが、魂の蘇生に必要な儀式です」

大輔「えっ…ちょ、ちょっと待ってください。そんな、社長が権限を手放すなんて…」

わたし「恐怖を感じるのは当然です。でも、私は何度も見てきました。『トップが一歩引く』ことで、死んでいた組織の魂が蘇る瞬間を。これは一時的な実験です。社員が本当は何を考え、どんな理想を描いているのか、あなた自身の目で確かめてほしい」

大輔「でも、経営判断を全部任せるなんて…」

わたし「あなたは『否定も命令もせず』に見守るだけでいい。私もそばにいて、必要なサポートはします。この1ヶ月が、会社を変える転換点になると確信しています」

こうして始まったのが、「トップ権限サスペンド計画」だ。1か月だけ、経営の最終決定は社員代表チームに委ね、大輔は“現場の一人”として動き回ることに。私はその間、陰でサポートとモニタリングを行なった。

第三章:1か月間の“経営者ゼロ”期間

1. 社員代表チームの結成

現場リーダーの吉田、営業担当の早川、品質管理の佐藤ら、普段からリーダーシップを発揮している社員を中心に「臨時経営チーム」が結成された。彼らは社員全員からヒアリングしながら、以下の取り組みを推進した。

  1. 現場の改善提案受付BOXの設置
    • 「作業効率を上げるには?」「困っている点は?」など、匿名でも投稿OK。
    • 社員の意見が一気に可視化された。
  2. 製造ラインの検証と再配置
    • 組立や検品の動線を見直し、作業ロスを減らすレイアウト変更を現場が主体的に決定。
    • 結果、作業効率が向上し、1日の生産量が15%アップ。
  3. 試作品のアイデアコンペ
    • これまで受注品ばかり作ってきたが、「自社製品」に挑戦できないかという声があがる。
    • ネジの特殊加工技術を活かしたDIY向け部品や、医療機器部品向けの試作品アイデアが社員から出された。

2. 大輔は“観察者”に徹する

大輔はミーティングにも参加するが、基本的に意見せず質問に徹した。最初は社員たちも戸惑っていたが、次第に「社長が指示しないなら自分たちで決めるしかない」と行動を起こすようになる。

ある日、大輔は私にこぼす。

大輔「なんだか、俺がいなくても会社が回ってるみたいで、ちょっと寂しいような…」
わたし「“あなたがいなくても会社が回っている”のではなく、“あなたが口を挟まないからこそ、社員が考え始めた”んです。いい兆候ですよ」
大輔「そうなんですかね…でも正直、こうやって俯瞰してみると、社員ってすごいアイデア持ってるんだなって驚きました」

こうして1か月が過ぎる頃、工場の雰囲気は明らかに変化していた。社員同士が相談し合い、改善策を次々に試す。生産効率は上がり、社内コミュニケーションは活性化した。

第四章:経営理念と未来ビジョンの再構築

「トップ権限サスペンド」が終了し、大輔が正式に“社長”の座に戻った。しかし、そのころには社員代表チームから、明確な提言が出されていた。

  1. “社員の幸せ”と“社会への貢献”の両立を掲げる経営理念の策定
    • 社員からは「誇りと生きがいを感じられる製品を作りたい」という声が多かった。
    • 「もっと世界に出て行こうよ」という若手社員の声もあり、視野が広がった。
  2. 試作品アイデアの本格事業化
    • 医療機器メーカーからプロトタイプ製造の相談が具体化し始める。
    • DIY向けの“軽量で強度の高いネジ”の特許出願も検討。
  3. コミュニケーション活性化制度の継続
    • 毎週の朝礼で「先週のトライ」「今週のチャレンジ」を全員で共有。
    • 改善提案は「採用or保留」だけでなく、必ずフィードバックを返すルールを確立。

こうして社員と共に作り上げた新しい経営理念は、私のアドバイスでより洗練された。
「私たちは“ねじ”という小さな部品で世界を支え、社員の幸せを築き、社会に貢献する」を掲げ、社名を生かしたキャッチーなメッセージに仕上げた。

わたし「この理念、ほんとうに社員の想いが詰まってますね。大輔さん、どう感じますか?」
大輔「自分が作ったというより、社員と一緒に作り上げた、って感じがします。これこそが本当の経営理念なんだなって…」

第五章:1年後のV字復活

あれから1年。中根製作所は驚くほどのV字復活を遂げていた。

  1. 新規取引の獲得
    • 医療機器メーカーとの契約が成立し、特許出願したネジの生産ラインを増設。
    • 従来の自動車部品の受注も回復に向かい、新規取引先も増加。売上は前年の1.5倍まで伸びた。
  2. 社員のモチベーションアップ
    • 自社からアイデアが出た製品が実際に採用されるなど、社員が“自分ごと”として働くようになった。
    • 離職率も下がり、求人への応募が増えた。
  3. 社内風土の変化
    • コミュニケーションが活発になり、朝礼や週次会議では「失敗事例の共有」や「小さな成功の称賛」が当たり前に行われる。
    • 上下関係よりも「リスペクトと協調」が重視され、誰もが発言しやすい環境に。
  4. 社会的評価の向上
    • 地元紙や業界誌に「老舗ネジ工場の若手社長が挑む経営改革」として取り上げられ、地元産業の未来を担うモデルケースとして注目される。
    • 大学との共同研究や地域イベントへの協賛など、社会貢献への取り組みも始まった。

結果として、工場は設備の刷新や新製品開発の投資にまわす資金に余裕が生まれ、持続的な成長サイクルを生み出している。

第六章:未来への展望

ある日の夕方、私は工場視察に来ていた。大輔は、工場の入口で私を出迎える。

大輔「堂本さん、久しぶりです!おかげさまで何とか形になりました。」
わたし「顔つきが全然違いますね。社員のみなさんも、生き生きしている。やっぱり“社員主導”で動いたことが大きかったと思いませんか?」
大輔「はい。最初は怖かったですけど、今では本当に良かったと思っています。自分は“社長”として指示を出すのではなく、“一緒に目標を作る人”に変われた気がします。」
わたし「売上1.5倍という数字は、あくまで結果に過ぎません。本当の成功は、社員一人一人の目が輝き始めたこと。私は過去、数字だけを追いかけて何度も破綻しました。でも今、あなたの会社には『魂の輝き』がある。これこそが本物の経営の証なんです」

大輔「堂本さん…本当にありがとうございます」

わたし「いえ、すべては社員の皆さんとあなたが成し遂げたこと。私は、その可能性を引き出すお手伝いをしただけです」

こうして中根製作所は、“全員参加型”の経営を武器に、確かな収益性と社員の幸福を両立させる企業へと進化を続けている。私の挑発的な言葉で目が覚めた3代目社長・中根大輔は、自社の価値を再定義し、社会に必要とされる会社へと本質的な変革を果たしたのだ。

そしてその物語は、小さな町工場がいずれ大きなビジネス舞台で活躍する序章に過ぎない——そう、私も大輔も確信していた。

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