深夜3時、オフィスの電気はまだついていた。
「残り12万3,842円…」
PCの画面を見つめながら、私は苦笑した。翌日には仕入れ先への支払いが33万7,500円。従業員7名の給料支払いまであと11日、合計で168万円が必要だった。取引先からの入金予定は20日後。もはや数字が合わない現実が、青白い画面から私を見下ろしていた。
喉は乾き、胃が焼けるような痛みがあった。3日間ろくに寝ていない。自宅に帰れば妻と子どもの顔を見なければならない。「今月も大丈夫?」という問いに、またウソをつくことになる。
頭を抱え、目を閉じた。そこに浮かび上がったのは、ただの不安ではなく、かつて味わった倒産の記憶だった。
一度目の転落
32歳で携帯ストラップの製造・販売事業を立ち上げ、半年で月商1,250万円を突破した頃、私は「自分の目利きは特別だ」と完全に思い込んでいた。初期投資800万円が半年で回収できたのだから、センスは間違いないと。
「もっと攻めれば3,000万は堅い」
そう周囲に豪語し、新作ストラップ120種類の金型を一気に発注。総額650万円を投じた。さらに展示会出展で280万円、広告宣伝費も320万円を追加投資。経理担当の「少し慎重にしては」という進言も、「この波に乗らないと大損する」と一蹴していた。
販売初月は計画通りの1,650万円を売り上げ、私の鼻息はさらに荒くなった。しかし、2ヶ月目に前月比30%減。3ヶ月目には50%減と急落した。突然現れた韓国製の競合商品が価格の半額で市場を席巻し始めたのだ。
気づけば在庫は1,200万円分、資金繰り表は真っ赤に染まり、支払いが滞り始めた。4ヶ月後、銀行からは「これ以上の融資は難しい」と言われ、取引先からは毎日のように催促の電話。自宅に差し押さえの書類が届いた日、妻は黙って荷物をまとめていた。
「子どもを実家に連れて行く。あなたはどうするか決めて」
すべてを失う恐怖と孤独感。ただでさえ苦しい状況で、頼れる家族さえ去っていくという絶望感。
真夜中の気づき
そんな記憶が脳裏をよぎる中、深夜のオフィスで私は突然、立ち上がった。
「あのとき、自分は何に盲信していたんだろう?」
コーヒーのしみが付いた裏紙とボールペンを取り出し、震える手で書き始めた。
- 「自分のセンスは絶対」
- 「一度売れたら、ずっと売れ続ける」
- 「120種類も作れば、どれかは当たる」
- 「競合の分析も不要」
- 「反対意見は無視して良い」
- 「在庫を抱えるリスクを考慮していなかった」
次に、「では今、何を盲信しているか?」と自問し、また書き出した。
- 「この商品なら絶対に月間800万円は売れる」
- 「融資は必ず通る(根拠なし)」
- 「会社が潰れても個人破産しなければ大丈夫」
- 「なんとかなるだろう」
思いもよらぬ気づきだった。12年経っても、私は同じパターンを繰り返していたのだ。「盲信」と「根拠なき自信」。そして、反対に「失敗したらどうしよう」という麻痺するような不安も強く、両極端を行き来していた。
再起への一歩―「疑信一体」の誕生
その深夜、私はノートにさらに2つの欄を作った。手が震えるのを抑えながら。
【疑うべきこと】
- 現在の資金繰り計画は現実的か?→ 明らかに破綻している
- 商品の需要は本当に安定しているか?→ 直近3ヶ月は前年比78%
- 競合の動きをどこまで把握しているか?→ ほとんど分析していない
- 借入可能額は?→ 個人保証で最大あと450万円(親に頭を下げれば)
【信じるべきこと】
- 自社商品の独自価値→ 特許取得済みの製法がある
- 既存顧客の信頼→ 離脱率は低い、むしろ単価が落ちている
- チームの粘り強さ→ 給料遅配でも全員残ってくれている
- 小さな成功体験→ テスト販売で良い反応があった新商品がある
これが後に「疑信一体」と名付けることになる考え方の原点だった。「疑う力」と「信じる力」を同時に持つことで、盲目的な突進も恐怖による停滞も避けられる。
翌朝8時、緊急の全体会議を開いた。オフィスの会議室で、初めて7名の全スタッフに資金状況をオープンにした。声が震え、何度も言葉に詰まった。
「正直に言います。今、会社の口座には12万3,842円しかありません。明日の支払いが33万7,500円。給料日までに必要な額は168万円です。破産も視野に入れないといけないかもしれません」
一瞬、会議室が凍りついた。そして私は続けた。
「でも、この会社には独自の強みがあります。特許技術、信頼してくれる顧客、そして皆さんの能力です。どうか一緒に、もう一度立ち直る道を探りませんか」
そして、その場で小さなアクションプランを立てた。
- 上位20顧客への早期入金交渉→目標125万円確保
- オフィスの一部スペース転貸→月額15万円
- 不要資産(展示会用備品、保管車両)売却→目標68万円
- 新商品Aの小規模テスト販売→投資額12万円で開始
さらに「2週間で売上が57万円に届かなければ、事業計画を根本から見直す」という撤退ラインも明確化した。
小さな奇跡の連鎖
驚いたことに、スタッフからは非難の声は上がらなかった。むしろ、沈黙の後、営業リーダーが立ち上がった。
「社長、ここまで率直に話してくれたのは初めてです。実は私たち、薄々気づいていました。でも言い出せなかった。今日から私たちも全力で取り組みます」
得意先への早期入金交渉も予想以上に成功した。5社が快諾し、合計132万8,000円の前倒し入金が確定。「正直に状況を話してくれてありがとう。長い付き合いだから応援したい」と言ってくれた社長もいた。
小規模テストも急ピッチで進め、投資12万円のSNS広告で新商品を試験的に発売。わずか5日間で86万3,000円の売上を記録した。利益率も42%と高く、このまま展開すれば大きな収益源になる可能性があった。
しかし、すぐに全力投球するのではなく、3段階の拡大計画を立てた。まず30万円の追加投資で2週間テスト。「売上150万円、利益率35%を下回ったら方向転換」という撤退ラインも設定した。
あれから3ヶ月。会社は危機を脱出し、むしろ以前より強固な基盤を築いていた。月商は1,450万円に回復。利益率も従来の18%から27%へと大幅に改善した。借入金も3分の1に減らすことができた。
そして何より、毎月の「疑信会議」で、データと直感の両方を大切にする文化が根付いていった。
再起力を生み出す3つのチェックポイント
あの夜から、私は毎週月曜日に必ず以下の3つを確認するようにしている。これが「疑信一体」の実践だ。
- 盲信リストを作る
- 「絶対大丈夫」と思っていることを書き出す
- 例:「この新規顧客は絶対に契約する」→本当に?何%の確率?
- その根拠を「売上予測÷2、コスト予測×1.5」で再計算
- 反対意見や批判を積極的に集める(月1回の匿名フィードバック制度も導入)
- コア価値を明確にする
- 自社の譲れない強みは「特許技術と親身なサポート」
- 顧客に提供できる独自価値は「納期の確実性と細かなカスタマイズ」
- それを信じて、価格競争には極力参加しない勇気を持つ
- 撤退ラインを設定する
- 新規プロジェクトは必ず「投資額の20%」を検証用に先行投入
- 「ROI 130%未満なら本格投資しない」と事前に決める
- 感情でなく、週次の数値会議で判断(毎週水曜17時固定)
- 小さく試して、早く失敗、早く学ぶ(失敗事例は社内データベース化)
どん底から這い上がる力は誰にでもある
あなたも今、資金繰りに苦しんでいたり、事業の行き詰まりを感じていたりするかもしれない。銀行残高をチェックするのが怖くなるほど。取引先からの電話に出るのが憂鬱なほど。
そんなときこそ、冷静になって「何を疑うべきか」と「何を信じるべきか」を紙に書き出してみてほしい。恥ずかしがらずに、家族やチームに正直に状況を伝えてみてほしい。
失敗は終わりではない。むしろ、再起するための最高の教材だ。あの夜、資金残高12万3,842円で絶望の淵に立っていた私が、3ヶ月後には月商1,450万円の会社に再生できた。
「疑う勇気」と「信じる力」を併せ持つ「疑信一体」の考え方こそ、何度でも立ち上がれる「再起力」の核心なのだ。
大切なのは、失敗から目を背けず、そこから学ぶ勇気。そして小さくても前に進む一歩を踏み出すことだ。
あなたの再起をサポートします
今、経営の危機に直面していますか?資金繰りに悩み、夜も眠れない日々を過ごしていますか?
私も何度もそこから這い上がってきました。その経験をもとに、あなたの再起を全力でサポートします。
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- 日時:毎週火曜・金曜 13:00~18:00(1枠60分)
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あなたの再起の物語は、今日から始まります。
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