「からやま」に学ぶマグネティックコンセプトの極意

――ブーム終焉でも“磁力”を維持する唐揚げ専門店の秘密

「からあげブーム」が一巡し、閉店が相次ぐなかでも堅調な業績を維持している唐揚げ専門店チェーン「からやま」。実はこの「からやま」、よく知られる“マグネティックコンセプト”の好例として考えられます。ブーム任せではなく、ブランドや商品そのものに強い“磁力(魅力)”を備えているからこそ、来店客が途切れずリピーターも多いのです。
では、からやまに見るマグネティックコンセプトとはどのようなものでしょうか。本記事では、4つの視点からひも解いていきます。


目次

マグネティックコンセプトとは?

マーケティングにおける「マグネティックコンセプト」とは、“磁石のようにお客様を惹きつけ、ファン化する”ブランド・商品コンセプトのことを指します。たとえば、新しいお店ができた直後だけ混雑し、その後まもなく閑古鳥が鳴いてしまう――そうならないためには、次のようなポイントが不可欠です。

  1. ブランド独自の世界観やストーリーの明確化
  2. 顧客の共感や心の琴線を打つインサイトの的確な捉え
  3. 商品・サービスが生む体験価値の一貫性と説得力
  4. リピーターを増やし、ファンを育てる仕掛けや仕組み

これらの要素が整合し、“らしさ”を強く打ち出せれば、顧客は単なる消費者から“ファン”へと変わっていきます。では、「からやま」はこれをどのように実現しているのか、具体的に見てみましょう。


1. 独自ストーリー:秘伝の「縁」の味と“定食屋”の掛け算

「からやま」は、テイクアウト唐揚げ専門店「からあげ縁‐YUKARI‐」との出会いが起点。おいしさに惚れ込み、味やレシピをM&Aという形で引き継ぐと同時に、親会社である「かつや」の定食オペレーションを掛け合わせ、新たな業態を作りました。

  • 10時間以上かける手仕込み
    解凍後、余分な水分を落とした鶏肉を秘伝ダレでひと晩漬け込み、そこから成形や粉打ちまで入念に行う。その“地道さ”こそが「一品入魂」の精神であり、「からやま独自の物語」として確立されています。
  • “ブームに乗らずに”変わらぬスタンス
    飲食業界はブームが来るたびに急拡大・急収縮を繰り返す傾向があります。しかし、からやまは創業時から「ブームに踊らされず、唐揚げという国民食を腰を据えてやろう」と決めていたと言います。この“ぶれない姿勢”自体がひとつのストーリーとなり、ブランドを下支えしています。

こうした「秘伝の味を守り抜く」「地道に仕込みを続ける」というストーリーは、単なる価格競争に留まらない“ブランドの磁力”を形成しています。


2. 顧客インサイトの捉え方:「お腹いっぱい」「お得感」「ちょっとした体験」

からやまが捉えた顧客のインサイトは大きく3つにまとめられます。

  1. ボリュームある美味しい唐揚げをお腹いっぱい食べたい
    • 看板メニュー「からやま定食」は唐揚げ3個・ごはん・みそ汁・キャベツ付きで税込682円(※2025年2月時点)。大振りの唐揚げがリーズナブルかつしっかり満足感を得られる。
  2. “得した”と実感できる付加価値
    • テーブルに常備されている無料の「いかの塩辛」や「割り干し大根」。追加料金なしで気軽につまめるお得感が支持され、SNSなどでも「塩辛が無料とか神すぎ」と話題に。
  3. ちょっとしたライブ感・娯楽要素
    • 店舗中央の「ライブキッチン」では、揚げ鍋で唐揚げが上がっていく様子が客席から見える。仕込み場の作業もオープンになっているため、「自分の唐揚げが揚がっているかも」とワクワクできる。

このように顧客が“また行きたい”と思う欲求を的確にとらえ、サービスや店舗設計に落とし込んでいる点が、磁力を発揮する大きな要因です。


3. 体験価値の一貫性:職人技 × チェーン運営ノウハウ

「からやま」の大きな強みは、味の安定感と提供スピードを両立していることです。

  • 店舗仕込みの徹底
    アルバイトも含めた全スタッフが、まずは唐揚げの仕込み工程を学ぶ。特に秘伝ダレの揉み込みや粉打ちなど、人が手間をかける部分を“あえて”削減しない姿勢がクオリティを支えています。
  • 親会社の“かつや”で培ったオペレーション
    かつや流の定食屋オペレーション(調理フロー、人員配置、価格設定など)は、短時間で回転させて顧客満足を高める手法を熟知。結果、からやまでも高い回転率を実現できています。

同じ味・同じスピード・同じ雰囲気で楽しめるという「チェーン店ならではの安心感」と、「手間暇かけた職人の唐揚げ」という一見相反する価値観を両立し、一貫した体験を提供していることがポイントです。


4. リピーターを生む仕掛け:回収率4割を超える「割引券」の威力

最後に、からやま独自のリピート促進施策について触れます。

  • 定番の100円割引券
    税込500円購入につき1枚、または定食・お弁当1つにつき1枚配布される100円割引券。その回収率は4割にも上ると言われています。これは極めて高い水準で、「ほかのものを食べても、また次回もここで食べたい」と思わせる仕組みになっています。
  • 月替わりフェア商品で飽きさせない
    油淋鶏やチキン南蛮など、バリエーション豊かな定食を増やすだけでなく、毎月フェア商品をリリースし「今日は新しい唐揚げを試してみようかな」という好奇心を刺激します。

こうした「お得感+楽しさ」で顧客をリピーター化し、さらにSNSやクチコミで新規客を引き寄せる磁力が働く。まさにマグネティックコンセプトの肝といえる部分でしょう。


まとめ:からやまに学ぶ“磁力”の正体

閉店が相次ぐ唐揚げ専門店業界のなかで、「からやま」だけが店舗数を維持・拡大し続けている背景には、マグネティックコンセプトに通じる次の4点が挙げられます。

  1. 秘伝のレシピ×手仕込みを貫く独自ストーリー
  2. “ボリューム”דお得感”דライブ感”で顧客インサイトを的確に捉える
  3. チェーン運営ノウハウと職人のこだわりを融合し、体験価値を一貫させる
  4. 割引券やフェア商品によるリピート施策で「また来たい」を誘発

こうした仕組みこそが多くの人々を引き寄せ、ファン化へとつなげる“磁石の力”です。価格やメニュー数といった単純な競争軸だけではない、「ブレない姿勢」「目の前で作られる楽しさ」「無料塩辛の意外性」といった多層的な魅力が、からやまへのリピートを後押しし続けているのです。

ブームに浮き沈みが激しい今こそ、からやまの事例は“マグネティックコンセプト”を学ぶうえで、大いに参考になるのではないでしょうか。もし唐揚げビジネス以外の領域でも、「どこに行くか迷ったら、あのお店に行こう」と思わせるくらいのブランド体験を構築したいのであれば、からやまのように「独自ストーリー」「魅力的な体験価値」「リピートを促す仕組み」をぜひ自社に当てはめてみるとよいでしょう。


「マグネティックコンセプトを自社ブランドに取り入れたい」「独自の“磁力”を備えたお店づくりを目指したい」――そう感じたら、ぜひ一度ご相談ください。

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